ゆとリーマンの徒然日記

主に海外機会に関する事を書きます。

西洋の労働観・東洋の労働観まとめ

 先日ヨーロッパを縦断している際、「西洋の労働観」と「東洋の労働観」に明確な違いを感じたのでちょっとまとめておく。

 

目次

1西洋における労働観

2東洋における労働観

3西洋と東洋の労働観、共通点と相違点

 

 

 

 

西洋における労働観

 

 

古代ギリシャ

・労働は奴隷のする事。市民は労働による成果を食べたり財として消費する。

 

アリストテレスなどの哲学者も市民と奴隷の区別を容認。肉体労働をすれば、思索の余裕など持てるはずもなく、市民はそれに従事すべきではないという考え方。

 

 

キリスト教と労働

・中世キリスト教は禁欲主義を旨とし、このことが人々の労働観を変化させた。「生活に必要なものを得るために働くことは貴重なことである。」と主張するようになる。

 

・「神への祈り」「生きていくために働くこと」:この2つを人生の尊い行いとする。

 

・聖ベネディクト派の修道僧の労働実践=仕事の意義と倫理を認識するようになった。

 

 

③近代的労働観の萌芽

◎12~13世紀:仕事の倫理の高揚

 ・貴賤の差、肉体労働の肯定、報酬の正当化

 ⇨現代の職業観に通じ、資本主義誕生の兆し。

 

◎14~17世紀:欧州域内、世界との貿易が盛んになり、一部の富裕層が出現。

 ・これらの富裕層が文化、芸術の中心となる。

 

 

宗教改革(プロテスタンティズム的労働観)

・ヨーロッパは囲い込み運動により失業者、浮浪者が増加。そのような者を「働く意欲に欠ける者」として糾弾。

 ↔︎勤勉な人への賛美が背景として存在。のちにウェーバーによって示される。

 

 

⑤市民革命~産業革命

ブルジョワジーが支配階級。労働者を働かせるような倫理が必要となる。

 ⇨マックスウェーバーによる「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神

 

カルヴァンによる禁欲生活の倫理と勤勉の倫理が資本主義の発展に寄与。労働者にとっても、この倫理が自らの生活を豊かにすることになったので、労資が同じ価値を共有し、資本主義は発展する。

 

 

⑥経済学の登場

・「経済学」:さらに資本主義を発展させるためにはどのような経済のあり方や体制が望ましいか。

・アダムスミス「国富論」:政府は市場に介入することなく、企業や労働者の自然な競争に任せておけばもっとも効率よく機能する。(古典派経済学)

アルフレッド・マーシャル:熟練労働者を増やすことが肝要。

 

⑦職人芸の意義

・労働:本来的には苦痛を伴うもの(肉体労働や単純労働を想定)

⇨それを喜びに転換させた・させるものは何か?

 

ウィリアム・モリス:職人芸の賛美(ブルーカラー)

 

・ジョン・ラスキン:労働と知性の関係重視(対ホワイトカラー)

 

 

マルクス主義「労働は人間の本質」

・労働は苦痛を伴うが、労働によって生活の糧を得るのであり、それを放棄するものは人間の本質から離れたものになる。(働かざる者食うべからず)

 

マルクスは資本家に反旗を翻したが、労働の価値は賞賛していた。資本家が、労働者の生産する財を奪い取っていることに異を唱えていたということ。

 

↔︎マルクスの娘婿、ポール・ラファルグ:労働に喜びなどはなく、自由な時間こそが人間性を豊かにする。労働者は、余暇をいかに楽しむかが重要。

 

マルクス主義は世界各地で流行したが、結局社会主義国は繁栄せず。しかし、社会主義から資本主義に転換した国も労働観に変化が見られたという事実は存在しない。

 

 

 

2東洋における労働観

 

①「桃源郷」について

・西洋では「ユートピア」と呼ばれ、働くことのない理想郷を指す。それに対し、中国における陶淵明の「桃源郷」は必ずしも働くことを自体を否定するのではなく、自然に逆らわぬ、例えば田園における自由な労働が楽園の条件。

 

・「桃源郷」:人は働くだけでなく、悠然と余暇を楽しむゆとりのあることが肝要。その上で、税金を奪うような「権力」も存在しないことが桃源郷の条件。

 

⇨現実においては不可能。天候や自然災害により自給自足ができない場合もある。その際に再分配の役割を担うのが権力(政府)の役割。

 

 

②日本における労働観:仏教と儒教の影響力が強い。

・仏教的労働観

 ⇨長部日出雄「仏教と資本主義」:日本における資本主義の先導者は行基

 ⇨行基:仏教の教義を説くだけでなく各地で貧民救済事業。その中で働くことの意義を人々に会得させた。人に役に立つ仕事と労働を「知識」として実感させる。その後

 ⇨空海行基と同様に救済事業を行う。「他人のために働く」という日本的な伝統の先駆けとなる。

 ⇨道元正法眼蔵」:働く際には「修行」と「作法」が大事。その上で自由に他者に奉仕しうる仕事に従事することが、もっとも人間にとって至福なことと主張。

 

 まとめると、「誰にも強制されることなく、自分の意志で進んで他人の役立つことをすること」が日本の仏教における理想的な労働観となる。報酬を求める働き方はあまり評価されないのが特徴的。(西洋との違い)

 

 しかし現在の日本社会でボランティア活動はあまり活発ではない。なぜ?

 ⇦無報酬で働き、他人のためになることをするという経済的余裕があまりない。

 ⇦仏教の教義に大半の日本人が無関心、無知、無反応である。

 

儒教的労働観

 儒教の「信徒」自体は日本には少ないが、日本人の精神構造に与えた影響力は大きい。

 武士が、社会を統治するという側面から儒教の論理を用い、「長幼の序」「男尊女卑」「規律重視」などの風習を構築。長い間日本社会を支える事になる。

 石田梅岩士農工商の最低位にある「商人」に対して、利潤を得ることは立派な商人哲学であると説いた。

 

二宮尊徳

 仏教や儒教の教義とは関係なく、日本人の働き方に影響を与えた人物。

 「勤勉と倹約」を説いた。マックスウェーバーと同じ理論で、西洋においても東洋においても「勤勉と倹約」が人類にとって尊いこととされている。

 

 

3西洋と東洋の労働観、共通点と相違点

相違点

・「理想郷」≒「理想」

 西洋:働かないこと。

 東洋(中国):労働は否定せず、自由な労働と余暇の調和が重要。

 

・労働にどのような価値を置くのか

 西洋:生きること。つまりは報酬の正当化。

 東洋(日本):他者のため、労働により発生する財の効用に焦点。

 

・労働価値の派生

 西洋:職人芸・労働と知性の融合

 東洋:石門心学における「商人哲学」

 

共通点

・労働とは

 西洋:人間の本質

 東洋(日本):「働かざる者食うべからず」

 

・労働における倫理

 西洋・東洋ともに「倹約と勤勉」が労働倫理となる。